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2015年

地球温暖化曲線の系譜(18)コンセンサスの形成へ向けて

地球温暖化の割合はそれほど大きくない、としたウッドの論文が1988年に発表されると同時に、ウィグレイとジョーンズ(Wigley and Jones, 1988)による再反論の論文が発表された。第一著者のウィグレイは、反論の元となったジョーンズらの論文の第二著者である。主従を入れ替えて、反論に応じたことになる。

一般に、学術雑誌に論文を投稿すると、雑誌の編集者は議論が正しいか否かを判断するため、複数の専門家に投稿論文の査読を依頼する。著者の見解に批判的な指摘にどのように応じて自分の主張を展開させるかが、その論文が世に出る過程で欠かせない作業である。査読者と質疑応答を重ねて論文の客観性が確保され、学術的な価値が高まれば、掲載した学術雑誌の評価も高まることになる。ジョーンズら、ウッドそしてウィグレイらの論文も、このような応答を経て世に出た。こうして、ウッドとウィグレイらの論文は連続したページ上に掲載されることになった。

ウィグレイ・ジョーンズは、都市の影響や気候特性とは無関係に観測データのスクリーニングが済んでいることを述べた後、都市の気温上昇は人口と関係するものの定量的な関係は明瞭でないとした。また、Karlら(1988)を引用し、人口10万以下の都市では、郊外の気温との差があっても、そのうちのわずか4%しか人口増加と関係しないと指摘した。さらに、アメリカ大陸に関するかぎり、ヒートアイランド研究の立場からみて、都市化の影響を差し引いたカールらの曲線と良く一致するとした(図:カールとジョーンズらの曲線の比較。上段はカールの曲線を1℃ずらして示してある。ジョーンズらの曲線の絶対値は、1901~1984年の平均気温からの偏差を示したものである。)。

こうした議論により、自分たちが求めた曲線は、都市の気温上昇の影響は除去されており、少なくとも比較的精度の良いデータが整った合衆国では真の気温トレンドを代表していることが証明されている、と主張した。議論の締めくくりが出色である。かれらは、これ以上の議論は無意味であり、さらなる批判が行われることをこの報告をもってさし止めにすると通告した。これほど強い調子の結論付けは、めずらしい。

こうして、IPCCのコミュニティのなかで重要なジョーンズらの温暖化曲線ができあがったのである。本シリーズの第2回目の曲線群のうちの赤色のものがそれである。

 

参考文献
・Wigley, T.M.L. and P.D. Jones: Do large-area-average temperature series have an urban warming bias? (Response to the manuscript by F.B. Wood) Climatic Change 12, 313-319, 1988.
・Karl, T.R., H.F. Diaz and G. Kukla: Urbanization: Its detection and effect in the United State climate record. J. Climate, American Mete. Soc., 1099-1123, 1988.

ウッズ

地球温暖化曲線の系譜(17)都市気候学者からみた疑問(その2)

学会で展開された激しくも興味ある議論について説明する前に、当時のアメリカでどの程度の広がりをもった地域を対象に地上気象データマイニングが行われていたか、Karlほか(1988)の研究論文をみてみよう。論文タイトルは「アメリカ合衆国の気候記録にみる都市化の検出と影響」で、都市と都市の影響が少ない地域の気温差がわかれば都市化が気温に及ぼす影響を推定することが可能になり、ひいては広域の平均気温を評価するために有効、というものである。

アメリカ合衆国の広範囲に分布する1219点の地上観測ネットワークデータを使い、1901~1984年について解析した。解析期間後半に相当する1941~1984年の観測地点の分布を図に示す。この研究では、人口2千人以下の地点(黒丸)とその近くに位置する2千人以上の地点(白丸ほか:さらに詳細に3つのカテゴリを設定)をペアにし、両地点の観測データの差を求めて都市化の影響を解析した。図で、ペアとなる2地点が実線でつなげてある。この図を見ると、観測地点が偏在しており、中西部では非常に少数であることがわかる。特に観測期間の前半となると、ペア地点間の距離は数十㌔に及び、日本では考えられないほど離れた地点を比較したことになる。当時、温暖化研究で最先端のアメリカ合衆国の場合でさえ、広域を対象に統計処理を行う場合の仮定の複雑さ・難しさが、ここにうかがわれる。

とにかく解析結果は次のように整理された。人口1万人以下の小さな町でさえ周辺との気温差が現れた。1万人規模の場合には、近くの人口2000人以下の地点と比較し、年平均気温で平均0.1℃高まった。同時に、冬季を除く全ての季節で日最高気温を低め、また全季節で気温較差が縮小した。これらから、20世紀を通した都市化で約0.06℃の高温バイアスが現れた、と結論づけた。

同時に、解析に用いた全観測地点数のうち、1980年時点で人口少ない町(1万人以下)の観測点数の割合が70%、また中規模以下の都市(2.5万人以下)となると85%に相当するため、都市化がアメリカ合衆国全域の平均気温に及ぼした影響は大きくないとした。この点は、その後にIPCCが第4次評価報告書で都市化と地球温暖化の規模を比較する際に示唆的なものとなる。これは、前報のウッドの主張を導くククラの結果とは一線を隔すものであった。

 

参考資料
Karl, T.R., H.F. Diaz and G. Kukla, 1988: Urbanization: Its detection and effect in the United States climate record. J. Climate., 1, 1099-1123.

 

カール

 

地球温暖化曲線の系譜(16)都市気候学者からみた疑問(その1)

20世紀の終わりころ、陸上の気象観測データを取り扱う場合に誤差を生じる要因として次のことが指摘されていた。それらは、(a)観測地点の移動、(b)測定機器の変化、(c)観測時刻の変更(特に、午後から午前に移したケースが多い)、(d)都市化による周辺環境の変化(近年のアメリカでは、都市の観測所が周辺の空港に移転するケースが多い)などだった。また、都市域を検出する客観的かつ合理的方法が見当たらないこと、データの質の評価や適切な修正は相対的な比較だけでは行い得ないことなどが、代表性の高い地球平均気温を求める際の障害だった。

その後、条件の良い観測データを選別する、一定の条件を設けて補正し誤差の範囲を認識して議論することにより、徐々に年平均気温の時系列変化の値に信頼性が与えられるようになった。こうして、前回に述べたジョーンズらの研究が行われ、それに対していわば現象論の面から、ウッド(Wood, 1988)の反論が行われた。論争のポイントは,都市気候の影響をどのように除去するか、であり、二人の論争が引き金となり新たな議論が繰り広げられることになる。

前報の内容をおさらいすると次の通り。ウッドは、ジョーンズらが求めた曲線をその当時において最も権威のあるものとしながらも、都市化による高温のバイアスが含まれている可能性が高い陸上の気温を使って海洋の温度を補正した点を指摘した。従って、地球平均気温は見かけ上高めになっていると考えた。すなわち、ジョーンズらの曲線ほど気温上昇はしていないのではないか、という点が論点であった。

都市化の高温の影響を含んでいる可能性があるとした理由は、次の通りである。(a)これまでの研究では、都市化による気温上昇の割合は0.1℃/10年で、一般に規模が小さい町でも都市化の影響が認められ人口が増えると高くなる(筆者コメント:地球温暖化の割合は、最近50年間でみると0.026℃/10年なので都市化による気温上昇の割合は非常に大きい。)。(b)1900~1986年の間に世界の人口は3倍に増加した。1950年~1986年に限定すると2倍以上に増え、都市に限っても1.5倍人口が増加した。(c)これに関して、ジョーンズらが都市として取り上げた地点数は、北半球の38地点(アメリカ22、カナダ2、中央アメリカ7、ヨーロッパ7)、南半球の3地点(ブラジル1、ニューギニア1、ニュージーランド1)と限られている。(d)さまざまな都市を個別に取り扱う場合に、地理的・気候的条件が異なることも、平均値を求める場合に難しい問題を含んでいる。

学術雑誌(Climatic Change)に研究結果を発表するためには、客観的な裏付けが求められる。ウッドの主張を裏付ける代表的な研究として、Kukla et al. (1986)の研究がある。これは上述の理由のなかで、主に(a)を支持する研究であった。非常に小さい町(人口1000~1万人)でも気温の場に影響が及び、地点によっては気温上昇でなく低下(寒冷化)する傾向も現れているとする一方、最近の気温上昇の割合は0.12℃/10年程度になると結論づけた。この数値はウッドの主張の根拠となった。

参考文献
  • Wood, F.B.: Comment: on the need for validation of the Jones et al. temperature trends with respect to urban warming. Climatic Change, 12, 297-312, 1988.
  • Kukla, G., J.Gavin and T.R.Karl, Urban warming. J. Climate and Applied Meteorol., 25, 1265-1270, 1986.

初霜の便り (藤沢市にて 11月28日)

11月28日に初霜を観測しました。
前日(11月27日)に続き未明からよく晴れました。しかも無風。放射冷却にはもってこいの条件です。
角田宗夫

撮影地:藤沢市打戻

藤沢市用田における初霜観測日
2010年 (平成22年) 11月 10日
2011年 (平成23年) 11月 25日
2012年 (平成24年) 11月 15日
2013年 (平成25年) 11月 13日
2014年 (平成26年) 11月 14日
2015年 (平成27年) 11月 28日

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環境フェアー参加報告

去る11月21日に、藤沢市民会館で第20回ふじさわ環境フェアーに参加しました。パネル展示した原稿は AWS紹介  と  大気光象写真集 です。海陸風の実験は、残念ながら途中で可視化に使った線香の臭い対して会館内の食堂からクレームがあり、藤沢市環境総務課の指示に従って中止しました。あらかじめ、実験で臭いが出ることは知らせてありましたが残念でした。その代わり、HPのビデオを見せながら解説を行いました。今後は、換気扇がある場所で、位置を確認しつつ実施する必要があるでしょう。会員4名が説明に当たりました。

会場の風景を、HPの会員用ページ(会議・イベント関係の情報)に掲載しますのでご覧下さい。終了後、次回はワークショップスタイルでの参加を考えてはどうか、といった意見がありました。ご協力ありがとう御座いました。

地球温暖化曲線の系譜(15)ジョーンズの見解

1940年以前の地球規模の平均気温に、人間活動の影響つまりヒートアイランド効果が含まれていたかどうか、の議論にはあまり意味が無い。むしろ、ヒートアイランド効果が含まれていた、と考えるのが自然だろう。その後の統計解析から明らかになるのだが、長い気象観測の歴史のなかで、人間活動が及ぶ地域に観測点を設けることが一般であった。当初は規模の小さな街で観測を開始した場合でも、時代の経過とともに都市に発展した結果、温室効果ガス濃度上昇の効果とは異なる要因による気温上昇が観測値に影響するのではないか。そのような印象を与えるようになったのは自然のことだった。

地球温暖化が注目され始めたカレンダーの時代(1960年代)になると、の地球規模の平均気温を解析する科学者達は、自分たちはヒートアイランドの効果をよく知っており、影響のある観測地点のデータは除去したので、懸念される点は十分考慮されていると考えた。観測データをどのように取り扱ったか、それ自体を注意深く議論することが重要になった。これには忍耐のいる解析を必要とし、議論は一見すると地味で退屈なものだった。

海洋上の観測データを取り扱うことができるようになると、都市化の影響を考慮しつつ、最も精力的に研究に取り組んだグループの一つはイギリスのジョーンズらだった。Jones et al.(1986)は、海洋データの不均質性はまだ十分に取りきれていない可能性があるが20世紀における全球規模の気温変化の全体像を歪めるものではないとしつつ、図に示した曲線を示した。縦軸は1970年代10年間の平均気温からの偏差、曲線(a)、(b)、(c)はそれぞれ北半球、南半球、全球の平均値の曲線である。南半球の気温変動は北半球より小さく、一様に昇温が続く様相を示している。

曲線(c)は、地球全体を代表するものとしてひときわ興味ある。134年に及ぶ時間経過のなかで温暖化が現れ、高温年の上位5位までが1978年以降に起こった。昇温する傾向は間違いないが、1930年代後半と1970年代中ごろに一端上昇が止まる時期が認められた。この要因として、温室効果ガス濃度の上昇だけでは説明できない外力の影響があると、彼らは考えた。このうちの後者については、「(12)ハンセンの結論」のなかでも述べた。

ジョーンズらの研究が掲載されたのは、Natureという有名な科学雑誌である。Natureに投稿される論文は、すでに理論の基礎部分に一定の評価が与えられているものが多く、このため比較的短くまとめられている。彼らの研究のデータベース構築の部分は、先行する別の論文で詳細に議論されたものであったが、この論文はNature論文としては比較的ページ数が多い。

ジョーンズらが導いた結論に対して、Wood(1988)が疑問を投げかけた。論点は、解析に使用した観測地点の選択や補正方法についてである。ウッドが投稿した学術雑誌はClimate Changeで、当時、発刊して10年ほど経過した中堅の雑誌であった(現在ではインパクトファクターが高い雑誌の一つ)。この雑誌では、当時注目度が高まりつつある気候変動を主題とした論文が多く取り上げられており、そのなかで議論の的の一つは都市の昇温であった。

ウッドの主要な指摘は次の様である。ジョーンズらは、自ら陸上のデータの質を向上させるためさまざまな補正を行ったが、都市にある観測点のデータに対して、特定時期の人口を基準とした区分をおこなって解析した。この点に関して、郊外が都市へ発展するには一定の時間がかかるので、ジョーンズらのように都市か郊外かの判定を特定の時期を基準におこなうのは合理的でないことを指摘した。すなわち、地球の平均気温はそれほど上昇していないのではないか、という立場である。

参考資料

  • Jones, P.D., T.M. Wigley and P.B. Wright: Global temperature variation between 1861 and 1984. Nature 322, 430-434, 1986
  • Wood, F.B.: Comment: on the need for validation of the Jones et al. temperature trends with respect to urban warming. Climatic Change, 12, 297-312, 1988

ジョーンズ

第20回ふじさわ環境フェアーについて(その2)参加募集

11月21日(土)に藤沢市民会館で、第20回ふじさわ環境フェアーが開催されます。藤沢AWSの紹介と海風実験を紹介する予定です。本日開催した全体実行委員会で配布された資料は以下を見て下さい。

会議次第 実行委員会次第

出典団体一覧 出典団体一覧01 と 出典大体一覧02

前日・当日のスケジュール表 前日当日時間割

第1ホールの展示場所 第1展示ホール配置

前日20日(金)10:30~16:00の準備作業と当日21日(土)9:00~16:00の説明係りについて、支援して頂く会員を募集します。各時間帯のどこでもOKです。調整させて頂くこともありますので、その際は相談いたします。昼食を支給します。

11月15日(日)までに、林(waxyleaf@gmail.com)までお知らせ下さい。

 

 

太陽柱(11月1日)

巻層雲はいろいろな大気光象を私たちに見せてくれます。これもそのひとつ。雲粒(板状の氷晶)が重力によって水平に並び、それに太陽光が反射することによってみられる現象です。
撮影日:2015年11月1日 午前6時37分

撮影地:藤沢市用田

撮影者:角田宗夫

太陽柱

太陽柱

真昼の虹 10月30日

虹というと、朝晩によくみられるものですね。日中は太陽高度が高く、太陽を背にして発生する虹は足元に出るので、平地ではなかなか見ることができません。お昼時に出ましたので、画像をお送りします。山間部ならではです。

撮影日:2015年10月28日 お昼前後
撮影地:群馬県水上町藤原湖と奈良俣ダム
撮影者:角田宗夫

藤原湖と奈良俣ダム

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IMGP3358[2]

IMGP3375[2]