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30日

地球温暖化曲線の系譜(4)カレンダーの発見

気候は一定の状態のまわりで揺らいでいる、という専門家の認識があるなかで、一人の英国の技術者(英国電気産業連盟研究協会、蒸気機関技師)、Guy S. Callendar、の興味を刺激したのは温暖化の影響を報じる新聞や雑誌の記事だった。地球が暖まっている実態を解明する面白さが、素人の彼を熱心な気候の研究者へと駆り立てた。当時、観測データには質的な検査に十分注意が払われていなかったため、グラフを描いたとしても、観測値が不規則に変動する結果をみて恐らくその先をあきらめたことだろう。

カレンダーは綿密な解析に取り組んだ。多数の気象観測所のデータを収集して質の良いデータを抜き出し、現在のようにコンピューターは使用せず紙と鉛筆で計算するという作業に膨大な時間を費やした。これらの作業は、熱機関技術者としての業務とは別にプライベートな時間に行われた。彼の膨大な記録ノートのコレクションがEast Anglia大学に保管されている。

解析結果は、論文にまとめられて1938年に発表された。論文のタイトルは「二酸化炭素の人為的な発生とそれが気温に及ぼす影響」であり、アレニウス以来の温室効果の理論を、進行中の気温上昇に結びつけて議論したものである。初めて公表された地球の平均気温の時系列を図1に示す。私たちが現在目にする時系列変動の曲線と比較すると、フリーハンドで描いた頼りない曲線に見える。しかし、この曲線が当時の人々、特に気候学者達に与える衝撃は大きかった。彼は、結論の一つとして、地球の平均気温が1890年から1935年にかけて疑いなく上昇したと述べた。この上昇温度は0.5℃に近い値だった。

図は論文の後半部分に挿入されていて、人間活動から排出された二酸化炭素の影響を実証するために使われている。この意味で、論文は優れた先見性を持っていた。論文の反響は、彼自身に、さらにもっと大胆な考えで研究を進めるべき確信を抱かせた。

カレンダーは、後日、観測地点の数を増やし、全球平均だけでなく帯状平均値や季節ごとの平均値を発表した(Callendar, 1961)。彼の時代には、まだ海洋上の観測データを使用していない。現在広く認められているデータベース(CRUTEM4)の中からカレンダーが解析の対照とした緯度帯の陸上のデータを抽出して作成した曲線と、カレンダーが作成した曲線との比較結果を図2に示す。1961年の曲線とCRUTEM4を使った結果者の相関係数は0.92と非常に高かった。

論文が世に出た1938年ころはどのような世相だったろう。まず1914~1918年の第1次世界大戦と1939~1945年の第2次世界大戦に挟まれている。1940年にはドイツ軍がポーランドへ侵攻し、イギリスを含む連合国はダンケルクの戦いで撤退を余儀なくされた。ロンドンは頻繁にドイツ軍の爆撃を受けたが、霧の発生とドイツ軍の爆撃との関係があった。カレンダーはこの頃、軍事に関わる霧の発生・消散の研究に従事した。

カレンダーの地球規模の気温変動に関する業績については、Hawkins & Jones(2013)にまとめられている。概要は次の通りである。1938年の論文が発表されると、化石燃料の燃焼で生成された二酸化炭素が地球の気温を上昇させる現象は「カレンダー効果」として知られていた。気温上昇の原因の一つである、都市のヒートアイランド効果の影響についても研究した。観測地点の場所を市街と郊外に分けて解析したところ、市街地で気温が高まる効果は全球の平均気温には影響しないと結論づけた。しかしサンプルの数は少なかった。ヒートアイランド効果の影響については、後にIPCCが詳細な検討をおこない同様の結論を導いている。また、国際地球観測年の事業で1958年に有名なマウナ・ロアにおける二酸化炭素濃度の長期観測が始まったが、これには、カレンダーが先鞭を付けた地球温暖化人為起源の実証ともいうべき研究が役割を果たした。

カレンダーの晩年にあたる1962年と1963には、ヨーロッパの気候は一転し冬は厳寒に襲われた。重い足取りで、道路に積もった雪をシャベルで除雪する彼の姿があったという。1970年代になると再び地球温暖化曲線は上昇を始めるが、それを知ることなく1964年に彼は世を去った。変動する地球の気温と同じように、カレンダーの生涯も波乱に富んでいたことがうかがわれる。

参考論文
  • Callendar, G.S., 1961: Temperature fluctuations and trends over the earth. JRMS, 87, 1-12, DOI: 10.1002/qj.49708737102.
  • Hawkins, E. and Jones, D., 2013: On increasing global temperatures: 75 years after Callendar. QJRMS, 139. DOI: 10.1002/qj.2178.
  • Global Warming Science And The Wars: Guy Callendar http://hubpages.com/hub/Global-Warming-Science-And-The-Wars
図1 カレンダーが1938年に作成した地球温暖化曲線

図1 カレンダーが1938年に作成した地球温暖化曲線

 

図2 カレンダーの曲線(実際には折線)と最近のデータベースから求めた曲線の比較

図2 カレンダーの曲線(実際には折線)と最近のデータベースから求めた曲線の比較