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04日

地球温暖化曲線の系譜(9)温暖化の再開

エミリアーニによって明らかになった深海水温の変動周期とそれから推測された氷河期の到来に関する議論に対して、ミッチェルは1972年に次のように述べて断定した。ミランコビッチ周期に採用されている軌道変化などは、将来の気候変動に大きな影響を及ぼさない。予想される実態としては、人為的な効果が介入することで、どちらかと言えば現在の間氷期がさらに引き延ばされることが起こるだろう。活発化した産業活動は二酸化炭素などの温室効果ガスを大量に放出し、それが毛布のように地球を覆うことで、氷の世界への浸入が妨げられるだろう。

1975年にNational Academy of Sciencesが招集した最先端の研究者の会議で、こうしたミッチェルの考えに対し、暫定的だが同意が与えられた。氷河期に向かう強制力が及んだとしても、気温は上昇し、今世紀の終わりまでに予想される温室効果の半分程度が二酸化炭素による濃度上昇と考えるのが妥当とされた。また、地球化学者かつ海洋学者であるWallace Broeckerは、自然の周期の効果に疑問を持ち、率直な態度で、「気温の変動周期が太陽活動に依存するとしても、温室効果ガスによる温暖化を一時的に相殺するだけだ。今後20~30年後に、温室効果はどんな周期現象よりも卓越するようになる。」(Broecker, 1975)と述べた。そして次のように問いかけた。「我々はこれまでに経験したことのない地球温暖化の瀬戸際に立たされているのではないか?」

こうした意見が表明される一方で、1975年、二人のニュージーランドの科学者が、北半球が過去30年間に寒冷化したことと対照的に、彼らの住んでいる南半球では温暖化が進行しているという論文(Salinger and Gunn, 1975)をネイチャーに発表した。概要は次のようである。広大な海が分布する南半球では、観測地点の数が非常に少ないことは否めない。この点を考えると、議論の的になってきた1940年以降の寒冷化は主に北半球で起こっている。産業から排出された微粒子が温室効果ガスによる温暖化を打ち消す現象が北半球で起こっていたのではないか。要するに、北半球は世界の産業が集中して立地し、多くの人間が住んでいる地域でもある。人が住んでいればその周辺の天候が主な関心事になるのが普通だ。

1970年代初めに科学者達が抱いた寒冷化の進行の疑いは、この時点で崩壊しつつあった。ジャーナリズムは、今や気候科学者は二手に分けられ、徐々に温暖化に向かうことを指示する人数が増えつつあると書いた。良い例がラムで、彼は1950年代に気候の揺らぎに注目した気候学者である。母国イギリスの歴史記録を解析し、中世の温暖期に続く小氷期の時代の気候を再現した人物で、1960年代の寒い気候をもとに新たな氷河期が訪れるという自然周期の研究で目の前で進行している現象を説明しようとした。しかし、南半球で起こった現象の報告や1976年のイギリスの暑い夏を経験し、人為的な温室効果ガスの放出が西暦2000年ころまでにいわゆる自然の揺らぎを卓越するという考えに自ら至ることになった。

さて、この時期におけるこうした温暖化論の再生論は、学術的な発展で自発的にもたらされたのだろうか。否、それだけとは考えられない。なぜなら、1970年代後半には現実に地域により全球平均気温の上昇が始まっており、その裏付けとなる観測地点の時系列記録が、以前よりも早く人々が目にすることができる時代になっていたことも、温暖化論の再興の背景にあったと考えられる。

参考文献

  • Broecker, W.S.: Climatic change: Are we on the brink of a pronounced global warming? Science, 189 (4201), 460-463. 1975
  • Salinger, M.J. and Gunn, J.M.: Recent climatic warming around New Zealand. Nature, 256, 396-398. 1975