温暖化か寒冷化か、の議論を行う場合、あらかじめ明確にしておくべき問題すなわち都市化による気温上昇が地球温暖化に関与しているか?の問題が、気候学者達の気持ちをすっきりさせずに残っていた。地球温暖化を論じる場合に、いつになってもノドに刺さった骨のように。
昔から気象を観察する人々にとって、市街地の中心域の気温が田園風景の広がる周辺地帯より明らかに高い現象は良く知られていた。このため、ヒートアイランド現象が地球温暖化曲線を描くもととなるデータに影響しているのではないかと考えるのは自然なことであった。
一般に都市域では、実際、暗い色の道路・屋根などだけでなく空気中を浮遊する煤塵が太陽エネルギーを効率よく吸収すると同時に、炉(暖房装置など)から放出された熱が気温を上昇させ、ヒートアイランドが形成された。図は、ランズバーグの教科書「The Urban Climate」から引用したヒートアイランドの実態を示す一例である。航空写真に地表付近の気温の等値線が重ねて引かれている。オレゴン州の都市(Corvallis)の1月の夜間に現れたヒートアイランドで、等値線の単位は温度(℃)を示す。最も気温が高い4.4℃の領域が市街の中心部分にあり、周辺ほど気温が低い。図の上方の土地が平坦な郊外で1.1℃以下となり、中心市街地との気温差は3℃以上になっている。
この都市内で気象観測が行われているとしたらどうだろう。そして地球温暖化曲線を描くためのデータとして利用されるとすれば、地球規模の平均気温に何らかのバイアスが加わるに違いない。
気温の上昇ばかりでなく(その後の研究で、都市域は夏季にはクールアイランドが発生する場所になることも指摘されているが)、郊外で雪の時に市街地で雨になるだろう。また市街地では煤塵が多いので、微雨日数が増えるだろう。日中はコンクリート面が過熱されるために都市域の上空で積乱雲が発生して強い雨が降るだろう。その他、さまざま都市域固有の気象が発生し、その結果としていわゆる都市気候が形成されることになる。こうした視点から専門家達は、1940年以前の温暖化は幻ではないかと問いかけた。
参考資料
Landsberg, H.E.: The urban climate, Academic Press, 262p. 1981