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05日

地球温暖化曲線の系譜(16)都市気候学者からみた疑問(その1)

20世紀の終わりころ、陸上の気象観測データを取り扱う場合に誤差を生じる要因として次のことが指摘されていた。それらは、(a)観測地点の移動、(b)測定機器の変化、(c)観測時刻の変更(特に、午後から午前に移したケースが多い)、(d)都市化による周辺環境の変化(近年のアメリカでは、都市の観測所が周辺の空港に移転するケースが多い)などだった。また、都市域を検出する客観的かつ合理的方法が見当たらないこと、データの質の評価や適切な修正は相対的な比較だけでは行い得ないことなどが、代表性の高い地球平均気温を求める際の障害だった。

その後、条件の良い観測データを選別する、一定の条件を設けて補正し誤差の範囲を認識して議論することにより、徐々に年平均気温の時系列変化の値に信頼性が与えられるようになった。こうして、前回に述べたジョーンズらの研究が行われ、それに対していわば現象論の面から、ウッド(Wood, 1988)の反論が行われた。論争のポイントは,都市気候の影響をどのように除去するか、であり、二人の論争が引き金となり新たな議論が繰り広げられることになる。

前報の内容をおさらいすると次の通り。ウッドは、ジョーンズらが求めた曲線をその当時において最も権威のあるものとしながらも、都市化による高温のバイアスが含まれている可能性が高い陸上の気温を使って海洋の温度を補正した点を指摘した。従って、地球平均気温は見かけ上高めになっていると考えた。すなわち、ジョーンズらの曲線ほど気温上昇はしていないのではないか、という点が論点であった。

都市化の高温の影響を含んでいる可能性があるとした理由は、次の通りである。(a)これまでの研究では、都市化による気温上昇の割合は0.1℃/10年で、一般に規模が小さい町でも都市化の影響が認められ人口が増えると高くなる(筆者コメント:地球温暖化の割合は、最近50年間でみると0.026℃/10年なので都市化による気温上昇の割合は非常に大きい。)。(b)1900~1986年の間に世界の人口は3倍に増加した。1950年~1986年に限定すると2倍以上に増え、都市に限っても1.5倍人口が増加した。(c)これに関して、ジョーンズらが都市として取り上げた地点数は、北半球の38地点(アメリカ22、カナダ2、中央アメリカ7、ヨーロッパ7)、南半球の3地点(ブラジル1、ニューギニア1、ニュージーランド1)と限られている。(d)さまざまな都市を個別に取り扱う場合に、地理的・気候的条件が異なることも、平均値を求める場合に難しい問題を含んでいる。

学術雑誌(Climatic Change)に研究結果を発表するためには、客観的な裏付けが求められる。ウッドの主張を裏付ける代表的な研究として、Kukla et al. (1986)の研究がある。これは上述の理由のなかで、主に(a)を支持する研究であった。非常に小さい町(人口1000~1万人)でも気温の場に影響が及び、地点によっては気温上昇でなく低下(寒冷化)する傾向も現れているとする一方、最近の気温上昇の割合は0.12℃/10年程度になると結論づけた。この数値はウッドの主張の根拠となった。

参考文献
  • Wood, F.B.: Comment: on the need for validation of the Jones et al. temperature trends with respect to urban warming. Climatic Change, 12, 297-312, 1988.
  • Kukla, G., J.Gavin and T.R.Karl, Urban warming. J. Climate and Applied Meteorol., 25, 1265-1270, 1986.