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09日

地球温暖化曲線の系譜(17)都市気候学者からみた疑問(その2)

学会で展開された激しくも興味ある議論について説明する前に、当時のアメリカでどの程度の広がりをもった地域を対象に地上気象データマイニングが行われていたか、Karlほか(1988)の研究論文をみてみよう。論文タイトルは「アメリカ合衆国の気候記録にみる都市化の検出と影響」で、都市と都市の影響が少ない地域の気温差がわかれば都市化が気温に及ぼす影響を推定することが可能になり、ひいては広域の平均気温を評価するために有効、というものである。

アメリカ合衆国の広範囲に分布する1219点の地上観測ネットワークデータを使い、1901~1984年について解析した。解析期間後半に相当する1941~1984年の観測地点の分布を図に示す。この研究では、人口2千人以下の地点(黒丸)とその近くに位置する2千人以上の地点(白丸ほか:さらに詳細に3つのカテゴリを設定)をペアにし、両地点の観測データの差を求めて都市化の影響を解析した。図で、ペアとなる2地点が実線でつなげてある。この図を見ると、観測地点が偏在しており、中西部では非常に少数であることがわかる。特に観測期間の前半となると、ペア地点間の距離は数十㌔に及び、日本では考えられないほど離れた地点を比較したことになる。当時、温暖化研究で最先端のアメリカ合衆国の場合でさえ、広域を対象に統計処理を行う場合の仮定の複雑さ・難しさが、ここにうかがわれる。

とにかく解析結果は次のように整理された。人口1万人以下の小さな町でさえ周辺との気温差が現れた。1万人規模の場合には、近くの人口2000人以下の地点と比較し、年平均気温で平均0.1℃高まった。同時に、冬季を除く全ての季節で日最高気温を低め、また全季節で気温較差が縮小した。これらから、20世紀を通した都市化で約0.06℃の高温バイアスが現れた、と結論づけた。

同時に、解析に用いた全観測地点数のうち、1980年時点で人口少ない町(1万人以下)の観測点数の割合が70%、また中規模以下の都市(2.5万人以下)となると85%に相当するため、都市化がアメリカ合衆国全域の平均気温に及ぼした影響は大きくないとした。この点は、その後にIPCCが第4次評価報告書で都市化と地球温暖化の規模を比較する際に示唆的なものとなる。これは、前報のウッドの主張を導くククラの結果とは一線を隔すものであった。

 

参考資料
Karl, T.R., H.F. Diaz and G. Kukla, 1988: Urbanization: Its detection and effect in the United States climate record. J. Climate., 1, 1099-1123.

 

カール